こんにちは。世田谷区奥沢でパーソナルジム「STRETCH & STRENGTH」を運営している、トレーナーのMOTO(モト)です。
2026年2月。3年ぶりの「本格的な二刀流復活」を目前に控えたドジャース・大谷翔平選手が、キャンプ地で非常に興味深い「持論」を口にしました。
「投げるスタミナは投げるしかない。それは走るとか、なにか重いものを上げるとかそういうことではない」
この発言を額面通りに受け取ると「やっぱり走り込みや筋トレは意味がないんだ」という、安易な「トレーニング不要論」に繋がりかねない危うさを持っています。しかし、31歳を迎え歴史的なシーズンに挑もうとしている彼の真意はもっと深く専門的な次元にあります。
今回はこの大谷発言をトレーナーとしての視点から徹底的に解剖し、アスリートが目指すべき「真のスタミナ」の正体を論理的にわかりやすく整理してみたいと思います。
【▶︎この記事でわかること】
- 2026年、大谷翔平が語った「スタミナ論」のハイレベルな前提条件
- 「エネルギー産生能力」と「エネルギー使用能力」の決定的な違い
- 1500m走が速くてもマウンドでガス欠する理由:スタミナを構成する3つの要素
- S&Cコーチが教える「基礎体力」から「技術的体力」への転移プロセス
1. 競技動作は「出力」であり、トレーニングは「入力」である
まず明確にすべきは、「競技動作」と「トレーニング」は全くの別物だということです。
- 競技動作(技術習得): 今持っている身体能力をどう使いこなすか、その「出力」の最適化。
- トレーニング(体力向上): 筋力、柔軟性、持久力といった、身体そのものの「入力」の底上げ。
大谷選手が言う「投げるスタミナ」は、完全に出力の話です。 以前の記事でも書きましたが、競技は「料理」です。どれだけ調理技術(練習)を磨いても、素材となるジャガイモ(筋力・持久力)が貧弱であれば、作れる料理のレベルには上限があります。
ここで重要なのは、彼はすでに「最高の素材(肉体)」を畑(ジム)で育て終えているということです。素材が完成しているからこそ、あとは「どう調理して最高の1球にするか」という仕上げのフェーズに全神経を注げるのです。
▼あわせて読みたい
#42「練習だけで十分」の落とし穴——才能を使い切るための「投資」としてのトレーニング論
2. 大谷選手の「スタミナ論」:玉入れの玉を増やすか、カゴに入れる技術を磨くか
「スタミナ」には、生理学的な持久力(エネルギーを作る力)と、競技特異的な持久力(エネルギーを使う力)の2種類があります。
イメージとしては、運動会の「玉入れ」です。 「走り込み」は、手持ちの玉(エネルギー)を増やす作業にあたります。一方、大谷選手の言うスタミナアップはその玉をいかに正確に、高い強度でカゴに入れ続けるかという「使用能力」の話です。
もし、玉の数が足りていないなら走り込むべきですが、玉はたくさんあるのにカゴに入れるのが下手(=投球動作でのエネルギーロスが多い)であれば、いくら走ってもマウンドでのガス欠は解消しません。
3. 「基礎体力」という入場門:彼はすでに完遂しているという事実
大谷選手の「重いものを上げることではない」という言葉を鵜呑みにしてはいけません。これは、「基礎的な筋力や持久力はあって当たり前」という、入場門をくぐった人間だけが言えるセリフです。
最大出力が100の投手と120の投手が、同じ150km/hを投げるとしましょう。100の投手にとってそれは全力投球ですが、120の投手にとっては「余裕」のある出力です。この「1球あたりの余力」こそが、終盤まで球威を維持するスタミナの正体であり、その余力を作るのがウエイトトレーニングという「積立投資」です。
基礎体力の向上には時間がかかります。一方で、マウンドでの「慣れ」は比較的早く効果を実感しやすい。彼はすでに投資を終え、そのリターンを技術に変換するフェーズにいるのです。
4. スタミナ不足の正体:エネルギー使用能力に貢献する3要素
「試合の終盤で疲労が出てきて動きが鈍るから、さらに走り込もう」という考え方は、あまりに単純すぎます。トレーナー視点から考えると私なら以下の3要素を疑います。
① 筋力:1球あたりの消耗を減らす「余裕」
フィジカルが強ければ、1回ごとの身体接触や投球動作による肉体的消耗を最小限に抑えられます。より軽い出力でも一定の球速が出せるよう、スタミナ不足解消のためにスクワットをやる、という発言が一見矛盾して聞こえるかもしれませんが、これは「燃費の良い大型エンジンを積む」作業なのです。
② 技術:燃費を最大化させる「動作の効率化」
投球フォームの中で例えば腹圧(IAP)が抜けていたり、股関節のヒンジが使えず膝主導の動きになっていれば、エネルギーは指先に伝わる前に「漏れ」を起こします。技術が未熟だと余計なエネルギーを使い、勝手に自滅していきます。練習をして技術を高めることが、結果として持久力の向上に繋がるのです。
③ 戦術:実戦の強度でしか得られない「適応」
大谷選手の言う「試合のレベルで継続していく中で身につく」のがこれです。 実戦特有の緊張感、出力の出し入れ、マウンドの傾斜への適応。これらはジムのラダーやバイクでは絶対に得られない「技術的体力」です。私自身もまだ(レベルが違いすぎますが)現役選手でもあるので、共感できるのですが練習と試合での体力の消費は全くの別物です。
5. 指導者としての責任:阻害効果(Interference Effect)をどうコントロールするか
最後に、専門家として非常に重要なポイントを。 持久力をつけたいからといって、ウエイトトレーニングと並行して過度な練習を行うと、「阻害効果(Interference Effect)」が発生します。持久力トレーニングが、ウエイトによる筋力向上のスイッチをオフにしてしまう現象です。
指導者の役割は、単に「走らせる」「挙げさせる」ことではなく、これらの相乗効果を引き出しつつ、阻害効果を最小限に抑えるようスケジュールを組むことです。「なんとなく動きが良くなった」という主観だけに頼らず、客観的な数字(KPI)に基づいた積立が必要です。
まとめ:魔法のドリルはない。最後はマウンドでしか完成しない。
今回の話を整理します。
- 競技動作は「調理」、トレは「素材」: 役割を分け、成長効率を最大化させる。
- スタミナは「産生」と「使用」の掛け算: 玉を増やす作業と、カゴに入れる技術、両方が必要。
- 機能なき筋力はリスク: 土台となる筋力があるからこそ、実戦スタミナという「最後のピース」がはまる。
トレーニングは決して魔法ではありません。しかし、正しく積み上げたフィジカルは、あなたが技術を磨くための「最高の土台」になります。
大谷選手の言葉は、自身の「素材」がいかに完璧であるかの裏返しでもあります。私たちも自分の現在地を冷静に見極め、足りないのは「ガソリン」なのか、「エンジン(筋力)」なのか、それとも「運転技術(実戦)」なのかを常に問い直すべきです。
「才能」という元本は人それぞれですが、トレーニングという「投資」によってそのリターンを最大化させることは誰にでも可能です。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
参考文献
- Hirose & Seki (2015) Two-year changes in anthropometric and motor ability values as talent identification indexes in youth soccer players.
- スポーツ報知(2026年2月23日)「大谷翔平が投手のスタミナアップに持論」
▼あわせて読みたい #37【野球人必読】「限界まで追い込む」は時代遅れ?「重量と回数」を決める時の考え方/RIRとフィットネスー疲労理論
⚾ MOTOについて(筆者プロフィール)
世田谷区でパーソナルジムSTRENGTH & STRETCH を経営しています。
トレーナー歴11年。ゴールドジム、Dr.ストレッチでの経験を活かし、
現在は自身もMAX145km/hの投手としてプレーしながら、
プロアスリートからジュニアまで幅広くサポートしています。
SNS総フォロワーは5万人超。 野球・トレーニング情報を届けています。
【ご予約・お問い合わせ】
技術的なお悩みからトレーニングまで、お気軽にご相談ください。
(公式LINEではレッスンのご相談も受付中です)
▶︎ お問い合わせはこちら(店舗公式LINE)
https://page.line.me/258njdpt?oat_content=url&openQrModal=true






コメント