#44「感覚」と「動き」のズレを埋める新戦略。背骨をエンジンに変える「WeckMethod」の衝撃

トレーニング

こんにちは。東京都世田谷区でパーソナルジムを運営している、パーソナルトレーナーのMOTO(モト)です。

「教わった通りに動いているつもりなのに、動画で見ると全然違う」 「YouTubeで理論はしっかり理解した。でも、いざ実戦になると体が勝手に元の悪い癖に戻ってしまう」

指導現場でアスリートが直面するこの悩み。その根本には、本人が感じている「運動感覚:キネスセティックス(Kinaesthetics)」と、外から見える「実際の動き:キネマティクス(Kinematics)」の深刻なズレがあります。

先日、このズレを劇的に解消し、身体パフォーマンスを根本から書き換える可能性を秘めた画期的なシステム、WeckMethod(ウェックメソッド)のセミナーを受講してきました。

今回のセミナー、そして私なりに深く調べていく中で見えてきたこのメソッドの正体は、想像以上に興味深く面白いものでした。

※なお、今回の内容はあくまで私がセミナーを受講し、私なりの視点で解釈し直したものです。理論の厳密な詳細や正解については、ぜひ本筋の資格認定セミナー等で直接確認されることを強くお勧めします。

WeckMethod JAPAN 公式サイト https://weckmethod.jp

WeckMethod JAPAN 日本公式Instagram https://www.instagram.com/weckmethod_jp/

それでは、セルジュ・グラコヴェツキー(Serge Gracovetsky)博士の著書『The Spinal Engine(脊柱エンジン)』を理論的支柱に据えた、「背骨を動力源に変える戦略」について徹底解説していきます。


1. そもそも「WeckMethod」とは何なのか?

WeckMethodは、あの有名なトレーニング器具「BOSU(ボス)バランストレーナー」の発明者であるデビッド・ウェック(David Weck)によって開発されたトレーニング体系です。

その根底にあるのは、「人間本来の走行・回旋メカニズムを、解剖学と物理学に基づいて最適化する」という考え方。

最大の特徴は、これまでのフィットネス業界で常識とされていた「体幹は固めて守るもの(Bracing)」という守りの考え方を真っ向から否定した点にあります。彼らは「体幹(脊柱)こそが、四肢を動かすための最大の動力源(Engine)である」と定義したのです。


2. 「見た目(運動学)」と「感覚(運動感覚)」のジレンマ

多くのアスリートが上達を阻まれる最大の理由は、キネマティクス(見た目の形)ばかりを追ってしまうことです。

・ キネマティクス(Kinematics): 関節の角度やフォーム。客観的な「外側の動きや速度」。
・ キネスセティックス(Kinaesthetics): 自分が動いている時に感じる、重みや力の流れ。主観的な「内側の感覚」。

例えばプロ選手の「ホームベースの上でボールを打て!」というアドバイスは、あくまでその選手の主観的な「感覚」です。それを真に受けて形だけを真似しようとすると、意識が筋肉や関節に向く「内的意識」に陥り、動きは途端にギクシャクし始めます。

WeckMethodが優れているのは、形を矯正しようとするのではなく、道具や特定の身体接点を通じて「動作の感覚(キネスセティックス)」を脳に直接フィードバックする点です。これにより、意識しなくても理想の形(キネマティクス)が勝手に立ち上がる「自己組織化」を促すのです。


3. 脊柱の戦略的使い分け:コイリング・コアの正体

WeckMethodの核心、それが「Coiling Core(コイリング・コア)」です。 背骨を一本の棒として固めるのではなく、部位ごとに役割を分担させ、多段式のエンジンのように機能させます。簡単に言えば、コイリングコアとは「脊柱を役割ごとに使い分ける戦術」であると言えます。

この戦術を可能にするのが、背骨のカップルドモーション(連動運動)です。背骨には「横に曲がる(側屈)」と「ねじれる(回旋)」がセットで起こる物理的な特性があります。

すごくざっくりとした説明を加えると、「片側は固めて縮める(ショートサイド)」を作り、「もう片側は引き伸ばす(ロングサイド)」ようにして体を使います。この左右の非対称な「しなり」によって脊柱の各セグメントに明確なタスクを与え、弾性エネルギーを生み出すことがこの戦術の鍵となります。


【脊柱各セグメントの役割分担】

  • 頭部・頸椎(スタビライザー): 激しい動きの中でも視線を安定させ、脳に「平衡感覚は正常で安全だ」という情報を送る「ノイズ遮断装置」。
  • 胸椎(メインエンジン): 特に上部胸椎は側屈と同方向に回りやすい特性があります。ここを「しならせ」、側屈と回旋を掛け合わせることで、強烈な弾性エネルギー(バネの力)を貯金する「メインエンジン」。
  • 腰椎・骨盤(トランスミッション): 腰椎は構造的に回旋が苦手です。ここは無理に回す場所ではなく、胸椎で作ったパワーをロスなく骨盤へ伝え、制御する「変速機(トランスミッション)」として機能させます。

4. 重心を外し、回旋モーメントを「自動発生」させる

コイリング・コアの真骨頂は、「意識の介入なしに回転を生む」ことにあります。

  1. 質量のオフセット: 意図的に重心を左右にシフトさせ、背骨の軸から「自分の体重(質量)」を外します。
  2. 自動的な回旋: 質量が軸から外れると、物理的に「勝手に回りたがる力(回旋モーメント)」が発生します。
  3. 弾性エネルギーの返還: 胸椎でこの回転を「しなり」として受け止め、骨盤と下肢へ一気に返します。

体幹はブレーキではなく、伸張反射(バネの反応)を強制的に起こさせるための動力源。これがWeckMethodの実践的な活用法です。


5. 「非利き側」と「豆状骨」というスイッチ

このシステムを全身でリンクさせるために、WeckMethodでは「非利き手側(動作の主役ではない空いている方の手)」の豆状骨への意識を極めて重要視します。

ここで言う「非利き手」とは、右利き・左利きの話ではありません。例えば、右手で重いバーベルを突き出す(ランドマイン・ジャークなど)際、「何も持っていない左手」のことを指します。

・ 空いている手で「ショートサイド」を作る: 負荷を持っている手(アクション側)を爆発させるために、あえて負荷のない「非利き手側」の豆状骨に、ベンチプレスを押し出すような圧をかけます。
・ 脊柱を強制的にコイルさせる: この豆状骨への入力によって、非利き手側の脇腹がグッと縮まり、脊柱に強固な「ショートサイド」が確立されます。この支え(土台)があるからこそ、反対側の「ロングサイド」が最大限に引き伸ばされ、爆発的な回転エネルギーを解放できるのです。

キネマティクス(見た目)の意識を捨て、「ショートサイドでどうコイリングを作るか」というキネスセティックス(運動感覚)にフォーカスする。この脳のハックこそが、眠っていた運動回路を呼び覚ますWeckMethodの真髄です。


6. ウエイトトレーニングとの統合:ハードとソフトの関係

今回のセミナー講師を務めていたのは、MLBのストレングスコーチを経てドームアスリートハウス(DAH)の立ち上げ等に携わられた、日本が誇るトップトレーナーの友岡和彦さんです。

そんな日本のトレーナー界の最先端を走り続けてきた友岡さんに、私はWeckMethodを知ってから抱いていた疑問をぶつけてみました。 「スクワットやデッドリフトなどの一般的なウエイトトレーニングとWeckMethodの関係、組み合わせ方はどう考えればいいですか?」

友岡さんの答えは非常に明快で、私の中で抱いていた疑問がスッと整理されるような感覚でした。「混ぜ方は簡単です。スクワットやデッドリフトは、左右両側の安定性を最大化し、強固な構造を作る『両側同時コイリング』の状態です」

私の中で、全てのピースがカチッとはまった瞬間でした。

  • ウエイトトレーニング: 強固な「ハードウェア(構造的安定性)」を作る作業。
  • WeckMethod: そのハードを使いこなすための「ソフトウェア(動力としての脊柱)」をインストールする作業。

この両輪が揃うことで、ジムで鍛えた筋力が、そのまま競技フィールドでの爆発的なパフォーマンスへと昇華される。まさに「目から鱗」の理論でした。


まとめ:あなたの「感覚」をアップデートせよ

以前のブログで「癖を直すには10倍の反復が必要」と書きました。しかし、WeckMethodは、その反復の質を劇的に変える可能性を秘めています。

  1. 「見た目」の真似を卒業し、内部の感覚(キネスセティックス)を磨く
  2. 背骨を固めるのではなく、動力源(エンジン)として使い分ける
  3. 豆状骨の圧や、ロープ・バーベルなどの道具を通じた「感覚」をトリガーにする

理論を学ぶことは大切ですが、最終的にはそれをあなた自身の身体感覚に落とし込まなければ、試合で使える技術にはなりません。

今回のブログは、私自身が受講した内容を整理し、頭に叩き込む作業でもありました。「頭では分かっているのに動けない」と悩むアスリートの皆さん、ぜひWeckMethodの世界に触れてみてください。

WeckMethod JAPAN 公式サイト https://weckmethod.jp

動作のインプット方法に新しい「火」を点けてみませんか?

「形を捨てろ、形を。水になるんだ。コップに水を注げば、水はコップになる。ボトルに注げばボトルに、ティーポットに注げばティーポットになる。水は流れることも、砕くこともできる。友よ、水になるんだ。」

—— ブルース・リー(武道家・俳優)

最後まで読んでいただきありがとうございました。

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⚾ MOTOについて(筆者プロフィール)
世田谷区でパーソナルジムSTRENGTH & STRETCH を経営しています。

トレーナー歴11年。ゴールドジム、Dr.ストレッチでの経験を活かし、
現在は自身もMAX145km/hの投手としてプレーしながら、
プロアスリートからジュニアまで幅広くサポートしています。
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