こんにちは。世田谷区・奥沢でパーソナルジムを運営しているトレーナーのMOTOです。
「正しいフォームが大事」とは誰もが言いますが、その投球メカニクスを物理・解剖学レベルで言語化できている選手は多くありません。
投球というコンマ数秒の爆発的な運動には、個人の感覚を超えた「物理的な正解」が確実に存在します。その裏側にあるエネルギー伝達効率と解剖学的妥当性を無視した投球は、パフォーマンスの停滞だけでなく、肩・肘の破滅へと直結します。
今回は、自ら投球フォームを研究し145km/hまで到達した私が、150km/hを超えるために不可欠な「10の動作フェーズ」を徹底解説します。
150km/hに耐えうる「ハードウェア」の条件
多くの選手が「肘の高さ」「グラブ腕の位置」など表面的な形を模倣しようとしますが、フォームとは本来、筋力・柔軟性・重心制御といった「物理的構造(フィジカル)」の操作の流れがある中の結果として立ち現れるものです。
車に例えるなら、フォームは「運転技術」、物理的構造は「車体(ハードウェア)」です。車体がボロボロであれば、どれだけ名ドライバーが運転してもF1のスピードには耐えられません。投球における「強い車体」の最低基準は、以下の4点に集約されます。
- 関節の役割分担(ジョイント・バイ・ジョイント): 動くべき関節(股関節・胸椎・足首)が機能し、支えるべき箇所(腰椎・膝・肩甲骨)が安定していること。
- エネルギーの密閉(腹圧/IAP): 体幹という容器を内圧で満たし、下半身のパワーを指先に伝える過程で「漏らさない」構造。
- センサーの精度(足指): 地面を捉える足指が機能し、脳が「100%の力を出しても転倒しない」と判断できる土台。
- バネの強さ(スパイラルライン): 肩から反対側の股関節までを繋ぐ「筋膜のしなり」を最大化できる柔軟性と筋力。
このハードウェアを整えることこそが、150km/hを目指すための絶対的な前提条件です。だからこそ、私の球速アップ術にはフォーム改造だけでなく、トレーニング・ストレッチ・食事といった地道な努力もセットで含まれます。
では、この土台を前提に、具体的な「10の動作フェーズ」の解説に入っていきましょう。
2. 150km/hを投げるための「投球10フェーズ」徹底解析
① ワインドアップ・セットポジション
【動作(Action)】 踏み出し足を上げ、軸足に重心をのせ安定して立つフェーズ。力みなく姿勢を安定させるためには、股関節の可動域と臀部・体幹の機能が必須です。この姿勢から、スムーズに重心を移動させるヒップファーストへ繋げていく必要があります。
【ポイント(Points)】
- 姿勢の保持: 胸椎後弯、腰椎前弯のS字ライン(姿勢)を保ち、軸足が曲がりすぎないように立つ。
- 重心の「斜め」移動: よく真っ直ぐ立つことが推奨されますが、軸足に体重を寄せて垂直に立ちすぎると、初動の速さが出しづらくなります。足が最も高く上がった時点で、重心がホーム方向へ「斜め」に入り始めている状態を私は推奨しています。これにより、次に受ける地面反力を推進力に変える準備が整います。
② ダウン動作(ヒップファースト)
【動作(Action)】 体重を軸足に乗せたまま重心を前に移動させます。重心が前方へ進みながら下降する過程で「トリプルフレクション(股関節・膝・足首の屈曲)」が起こります。この時、軸足の股関節は「外転・外旋」をキープしながら前へ進んでいきます。
【ポイント(Points)】
- 「内力(筋力で姿勢維持を行う)」: 重心が移動する間、骨盤の傾きを一定に保つために軸足の内転筋が耐える力。これがないと重心が早期に崩れ「突っ込み」の原因になります。
- 理想の角度: 球速が速い投手ほど軸足が斜めに倒れており、理想は約45度を目安とします。
- 上半身の連動: 肩関節を内旋・内転(腕を落とす)させ、重心が沈み切ったところから外転・外旋させて腕を上げていきますが、タイミングには個人差があります。
③ 前方へのスライド(並進運動)
【動作(Action)】 重心が沈み切った後、軸足側の爆発的な「トリプルエクステンション(三関節伸展)」により推進力を生みます。理想は、踏込脚(着地足)が重心の真下を超えた後、グラブ腕と踏込脚で引っ張るように前に出すことで加速をさらに高めることです。
【ポイント(Points)】
- 地面を押し続ける力: 150km/hを安定して出す投手は、軸足の股関節が内旋に進んでも地面を捉え続け、押し続ける時間が非常に長いです。
- スパイラルライン: 肩関節の外旋で腕が上がると同時に、胸椎を後方に回旋させることで、右肩から左股関節までを対角線上に伸ばします。
- テイクバックの不文律: テイクバックの形を無理に変えるとイップスのリスクがあるため、私は無理にいじりません。強いて言うなら、「三塁側のバント処理から一塁への素早い送球」の感覚。これが肩のゼロポジションに最も近い、自然な連動を引き出します。オリックスの山下舜平大選手も、この感覚を大切にされているようです。
④ フットプラント・トップ(着地)
【動作(Action)】 踏み出し足が接地する運命の瞬間です。地面スレスレまで我慢した足を、タイプに合わせ「踵・爪先・フラット」のいずれかで接地させます。ここで重要なのは「二段階目の加速」です。踏込脚は内旋から外旋へ、軸足は外旋から内旋へと入れ替わります。慣性を殺さず、前方へもう一段階ブーストをかけられるか。ここが150km/h到達の分岐点となります。
【ポイント(Points)】
- ネガティブシンアングル(強烈なブレーキ): 脛(すね)が地面に対して鋭角に突き刺さるように接地します。この鋭い角度によるブレーキが、並進運動のエネルギーを「骨盤の鋭い横回旋」へと自動的に変換させます。
- 肘と足の距離(割れ): 接地した瞬間、投球側の肘を着地足から最も遠い位置に残します。この最大化された「距離」が、筋肉のバネ(SSC:伸張反射)を極限まで高めます。
- 肘の角度(テコの最適化): テコの原理を効率よく発揮するため、トップでの肘の角度は80〜110度をキープします。
⑤ コッキング(最大外旋)
【動作(Action)】 骨盤の回転が上半身に伝わり、胸が最大に張られるフェーズ。④で作った「時間差(ラグ)」により、投球腕が大きくしなります。
【ポイント(Points)】
- 胸郭の柔軟性: 胸椎や肩甲骨の可動域が不足していると、しなりが生まれず、自らの筋力で無理に回そうとして故障を招きます。
- 「残る」と「引く」の決定的な違い: 腕は後ろに残る必要がありますが、あくまで慣性で「残る」のであって、意図的に「後ろに持っていく(引く)」動作にならないよう注意してください。
- 過度な遅れの代償: 投球腕を背中側に自ら引いてしまうと腕が遅れすぎる形に繋がり、上腕二頭筋長頭腱や棘上筋の腱を痛めやすくなります。
⑥ レイトコッキング(ラグの創出)
【動作(Action)】 回転が最高速に達する直前の、エネルギーが爆発を待っているフェーズです。ここでは「腕を振る」意識を完全に排除し、体幹の回転に対して腕をいかに「後ろに残せるか」が全てを決まります。
【ポイント(Points)】
- 加速距離(力積)の確保: ボールが2塁側や背中側の空間に長く留まるように意識し、腕の「ラグ」を作ります。これにより指先がボールに力を伝える時間(距離)が物理的に長くなります。
- グラブ腕による「支点」の形成: グローブ側へ身体をぶつけていくイメージで、回転の支柱を作ります。回転半径を大きく保つことで、慣性モーメント(回転しにくさ=回転の粘り)を高め、バットを長く持った時のような強大な回転運動エネルギーを生み出します。
⑦ 腕の加速(アクセレレーション)
【動作(Action)】 踏み出し脚の強烈なブレーキにより、溜まったラグが一気に解放されるフェーズです。ここでも主役は「腕」ではなく「体幹の前傾」です。
【ポイント(Points)】
- 上体の前傾と縦回転: 自ら腕を縦に振るのではなく、踏み出し脚のブロックによって上半身が前へ投げ出される(前傾する)動きが、結果として「縦回転」という形になります。リリース時の上体前傾が深いほど球速と相関することが研究でも示されています(Stodden et al., 2001)。
- 僧帽筋下部・前鋸筋による安定: 腕は体幹に引きずられて加速するため、肩甲骨が負けて後ろに抜けないよう、僧帽筋下部や前鋸筋でガチッと固定し続ける必要があります。体幹の回旋エネルギーを効率よく腕に伝えるためには、この肩甲骨の安定化が不可欠です(Aguinaldo et al., 2009)。
⑧ リリース
【動作(Action)】 脚→骨盤→胸郭→肩甲骨→腕→指先へと、積み上げてきたエネルギーを一点に凝縮し、ボールへ流し込む局面です。ここで理想とするのは、「縦回転による上体の前傾」と「肩関節の鋭い内旋」の融合です。上半身の重心が捕手方向へ「直線的」に加速することで、最短距離でのエネルギー伝達を完結させます。
【ポイント(Points)】
- アブローラーの感覚(アンチエクステンション): リリースの瞬間の腹圧は、「腹筋ローラーを最大まで伸ばして耐えている時」の感覚です。これにより、体幹部でのエネルギー漏れを完全に防ぎます。
- 重心の直線性: 体が横に流れるのではなく、縦回転の力を使って重心をキャッチャー方向へ押し出します。この「直線性」が、球威(回転数)とコントロールの両立を生みます。
- 肩関節の高速内旋: 前方に移動する重心に対し、肩関節を爆発的に内旋させることで、ムチのようなしなりを完結させます。
⑨ 腕の減速(ディセレレーション)
【動作(Action)】 リリース後、腕は踏み出し脚の外側に振られます。故障予防において、最も見落とされがちで、かつ最も重要なフェーズです。
【ポイント(Points)】
- 内旋による減速: 腕を無理に筋肉で止めるのではなく、上半身の前傾と肩の内旋動作によって自然にエネルギーを逃がし続けます。
- 回り投げの禁止: 踏み出し足のブレーキが効かず、側屈して回る投げ方は、肘が伸び切った位置でリリースしやすく、靭帯に甚大なダメージを与えます。力は常に真っ直ぐ伝えます。
⑩ フォロースルー
【動作(Action)】 投球動作の完了。投げ終わった後に腕が跳ね上がるのではなく、地面に近いあたりで小さく回る方が負担は少なくなります。
【ポイント(Points)】
- 柔軟性の証明: しなやかなフォロースルーは、全身の柔軟性と安定性のバランスが整っている証拠です。
- 守備への移行: 軸足が一塁側に流れすぎないように注意し、すぐに守備の準備に入りましょう。
3. まとめ:身体の「連鎖」を最適化せよ
投球フォームの改善は、ジグソーパズルのピースを埋めていく作業です。形を表面上で真似るのではなく、ここまでに解説した物理的連鎖を、自らの感覚と一致させていく必要があります。
【投球10フェーズ:一言総括】
- セット: 重心を「斜め」に入れ、推進の準備を作る。
- ヒップファースト: 「内力」で骨盤の開きを耐え、強大なタメを作る。
- 並進運動: 外力(重力)を使いながら前に進みつつ、前後の距離を作る。
- 着地: 「ネガティブシンアングル」で回転のスイッチを入れる。
- コッキング: しなりを「能動的に引かない」よう注意する。
- レイトコッキング: 最大限の「ラグ」とトルクを創出する。
- 加速: 慣性による「上体の前傾」が結果として腕を振らせる。
- リリース: 「アブローラー」の腹圧で出力を指先に通す。
- 減速: 内旋連動によって肩肘の負担を安全に逃がす。
- フォロースルー: 直線的なエネルギー伝達を完結させる。
【パフォーマンスを支える5つの本質】
- 物理的構造(ハードウェア)を整え、動ける身体を作る
- 内力で位置エネルギーを逃さず蓄え、加速の「タメ」を作る
- テイクバックはいじらず、バント処理のような自然な連動を待つ
- ネガティブシンアングルで強烈な回転を生む
- アブローラーの腹圧で出力を伝え切る
どれだけハードな練習を積んでも、努力の方向性が間違っていれば150km/hの壁は越えられません。大切なのは、自分の課題がどのフェーズの「エラー」にあるのかを正しく見極める知性を持つことです。
私自身も一人の投手として150km/hの壁に挑む中で、自らのボトルネックを「捻転差の不足」と定義し、その根本要因を「着地瞬間の二段階目の加速(ブースト)の甘さ」に特定して改善を続けています。このように、技術的な限界を物理的な現象として解釈し、一つずつエラーを埋めていく作業こそが、パフォーマンスを確実に引き上げる唯一の道だと確信しています。
選手の数だけ課題の形は違いますが、物理原則に基づいた「設計図」は共通です。あなたのポテンシャルを最大限に引き出す設計図を共に描き、形にしていけるよう、私自身もトレーナーとして、一人の投手として現場で精進し続けます。
あなたの競技力を最大限に引き出すために、STRETCH & STRENGTHは全力でサポートします。「なんとなく」の投球を卒業し、論理的なメカニクスで一生モノの体作りを目指しましょう。
「実践なき理論は、舵もコンパスもない船のようなものだ。だが、理論なき実践は、暗闇を歩くのと同じである。」 —— レオナルド・ダ・ヴィンチ(万能の天才)
最後まで読んでいただきありがとうございました。
【参考文献】
- Stodden, D. F., et al. (2001) “Relationship of pelvis and upper torso kinematics to pitched ball velocity.” Journal of Applied Biomechanics. (Phase ⑦:リリース時の上体前傾が球速と相関する)
- Aguinaldo, A. L., et al. (2009) “Effects of upper trunk rotation on shoulder joint torque and ball velocity in overhand pitching.” (Phase ⑥・⑦:回転の遅れ=ラグが、肩の負荷を抑えつつ球速を高める)
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