こんにちは。東京都世田谷区でパーソナルジムを運営している、パーソナルトレーナーのMOTO(モト)です。
野球、特に投手(ピッチャー)向けのパフォーマンスアップを中心に情報を発信しています。
今回は「野球と持久力の関係(走り込み)」について話をしていきます。
この記事を書こうと思ったきっかけは、先日、工藤公康さんのYouTubeチャンネルで、ソフトバンクホークスの和田毅投手が出演されている動画を見たことです。
そこで和田選手が「圧倒的な量の走り込み」を行っていることが紹介されていました。
昨今、SNS等では「野球は瞬発系のスポーツだから、長距離を走るような有酸素運動は必要ない」「走り込みは悪」という論調が非常に強くなっています。
しかし、40歳を超えてなお第一線で活躍し続けた和田選手が、それを否定するかのように走っている。この事実は見逃せません。
今の「走り込み不要論」は少し極端になり過ぎているのではないか?そう感じ、今回はあえて一石を投じてみます。決して根性論ではなく生理学的な視点から、「なぜ走る必要があるのか」を解説します。
「ダルビッシュ選手が走らなくていいと言っていたから走らない」という表面的な情報の受け取り方ではなく、体の仕組みを理解した上でトレーニングを選べるようになりましょう。
■ この記事の結論(30秒で理解したい方へ)
結論から言います。
野球選手にも「持久力(走り込み)」は必要です。
ただし、それは「マラソン選手になるため」ではなく、「回復能力」と「動作の再現性」を高めるためです。
【NGな考え方:なぜ「走らない」が正義になるのか?】
「野球は瞬発力だから持久走はムダ」という意見は、もっともらしく聞こえます。しかし、これを主張する選手の中には、単に「キツイ練習をしたくない」という言い訳にしているケースが見受けられます。まず生理学的に見れば、持久力には「回復力」という重要な役割があります。
【基礎知識:エネルギーを生み出す「3つの蛇口」】
筋肉を動かすATP(エネルギー)の供給経路は3つあります。
1. ホスファゲン機構(爆発的・7秒程度)
2. 解糖系(中距離的・33秒程度)
3. 酸化機構(長距離的・有酸素)
野球は1がメインですが、回復や反復練習には2と3の能力が不可欠です。
【現場のリアル:投手の「空き時間」こそポール間走】
実際の練習現場では、野手の練習中に投手の時間が空くことがよくあります。この時間を使い、ポール間走など「中強度」で走り込むことは非常に効率的です。疲労が溜まってきてもフォームを崩さず走ることで、運動連鎖を整える(チューニングする)練習になります。
【考え方:トレーニングは「ピザのピース」で考える】
持久力トレーニングを「やるか、やらないか」の0か100かで考えないこと。トレーニング全体(ピザ1枚)のうち、どの程度の「一切れ(ピース)」として組み込むか、そのバランスが重要です。
■ そもそも持久力とは?疲れないだけではない
まず、持久力の定義を確認しましょう。Wikipedia等では「疲労に抵抗する有機体の能力」とされています。簡単に言えば「疲労に耐える力」です。
野球界で「走り込み不要論」が叫ばれるのは、「試合中に息が切れることなんてないじゃん」という発想からです。
しかし、ここには生理学的な誤解があります。持久力のメカニズムを理解するために、少し専門的な「生体エネルギー論」にお付き合いください。
■ 生体エネルギー論:3つの蛇口
筋肉を動かすにはATP(アデノシン三リン酸)というエネルギーが必要です。このATPを供給する仕組みは、大きく分けて3つの「蛇口」に例えられます。
1. ホスファゲン機構(ATP-CP系)
特徴:「蛇口を全開に捻ってドバっと出す。でもすぐ空っぽになる」
時間:約7秒以内
用途:全力投球、フルスイングなどの一瞬の爆発。
2. 解糖系(無酸素的解糖など)
特徴:「速いものと遅いものがあるが、そこそこの勢いで出し続けられる」
時間:約33秒程度
用途:長打のランニング、連続した守備動作など。
3. 酸化機構(有酸素系)
特徴:「蛇口をチョロチョロと捻った状態。勢いはないが、いつまでも出し続けられる」
時間:数分〜数時間
用途:ジョギング、試合中の待機時間、疲労回復。
野球のプレー自体は、確かに「1. ホスファゲン機構」がメインです。
しかし、この蛇口の水が切れた後、再びタンクに水を溜める(回復させる)ためには、「3. 酸化機構(有酸素能力)」がベースとして必要になるのです。
■ 持久力には「2つの種類」がある
一言で「持久力」と言っても、鍛え方と目的が異なります。
【1】無酸素性持久力
酸素の供給に頼らず、乳酸に耐えながら動き続ける能力です。
鍵となるのは以下の2点です。
・酸素負債能力:どれだけ体内で乳酸を発生させられるか。
・乳酸性作業閾値(LT):乳酸が急増するポイントを、より高い強度へ引き上げる。
具体的なトレーニング例
・100m走 × 8本(休憩90秒)
・ポール間走 × 10本(休憩60〜90秒)
※「キツイ」と感じ、酸素が足りない状態を意図的に作ります。
特にポール間走(インターバル走)は、ダッシュほど速すぎず、ジョグほど遅すぎない「中強度」の負荷をかけ続けられるため、野球選手には非常に適したトレーニングです。
【2】有酸素性持久力
酸素を取り込みながら動き続ける能力です。
鍵となるのは以下の2点です。
・最大酸素摂取量(VO2max)の向上
・酸素摂取の持続能力の向上
具体的なトレーニング例
・最大酸素摂取量UP:10分間のランニング(心拍数180以上)
・持続能力UP:30分間のジョギング(心拍数120〜160)
※よくある勘違いとして、「脂肪を燃やすために速く走る」人がいますが、速すぎると糖質がエネルギー源になります。脂肪燃焼や疲労回復(アクティブレスト)が目的なら、会話ができる程度のペースで長く走るのが正解です。
■ なぜ野球選手に持久力が必要なのか?
「試合でマラソンなんてしないから不要」という意見に対し、私は明確に「必要」と答えます。理由は大きく2つあります。
理由1:リカバリー(回復)能力のため
例えば、2アウト・ランナー1塁。あなたは全力でホームへ突っ込みましたが惜しくもアウト。息が整わないままチェンジになり、守備につきます。
その直後、守備範囲ギリギリに打球が飛んできた時、あなたは100%のダッシュができますか?
ここで必要なのが、無酸素運動で発生した借金(酸素負債)を、短時間で返済する能力です。これには有酸素性のベースが不可欠です。
理由2:練習の「質」と「怪我予防」のため
実はこれが最も重要です。
持久力がない選手は、練習の後半や試合の終盤でバテます。
バテるとどうなるか?「フォーム」が崩れます。
下半身が疲れて踏ん張れなくなると、上半身だけで投げようとします。その結果、肘や肩に過度な負担がかかり、怪我に繋がるのです。
「正しいフォームを維持する能力」こそが、怪我を防ぎ、技術を定着させるための鍵です。
■ 【重要】見落とされがちな「運動連鎖」と「現場での効率」
ここまで生理学的な話をしてきましたが、実は私が最も推奨したいのは「中強度ランニング(ポール間走など)」による運動連鎖のチューニングです。
実際の野球の現場では、野手のバッティング練習中など、投手陣はグラウンドで時間が余ることが多々あります。この時間をただのお喋りでもして過ごすか、有意義に使うかで大きな差がつきます。
疲労下での「フォーム維持」
ポール間走のような中強度のランニングは、本数を重ねると当然疲労が溜まります。身体が重くなり姿勢が崩れそうになる。そこで「崩さないように」身体をコントロールして走る。
これこそが、試合終盤の疲労したマウンドで、正しい投球フォームを維持するための予行演習になります。
走りの「運動連鎖」は投球に通ずる
「走る」という動作は、分解すると「片足ジャンプの連続」であり、投球動作と共通点が多いです。地面を強く押して反力をもらう感覚(Ground Reaction Force)や、股関節を伸展させながら上半身と連動させる動き。
これらを、適度なスピードの中で確認しながら走ることで、下半身主導の身体操作を身体に染み込ませることができます。
ダラダラ走るのではなく、「動きを整える」意識で走るポール間走は、時間効率の良い優れた練習と言えます。
■ トレーニングの適正量:「Piece of pizza」の考え方
では、どれくらい走ればいいのか?
ここで紹介したいのが「Piece of pizza(ピザの欠片)」という概念です。(※NEXT BASEの庄村康平氏がセミナーで紹介されていた言葉です)
トレーニング全体を「1枚のピザ」だと考えてください。
そのピザの具材をどう配分するかという話です。
昔の野球部のように、ピザの9割が「走り込み」では、技術練習やウエイトトレーニングのスペースがありません。これはNGです。しかし、最近の傾向のように、走り込みのピースを「ゼロ」にしてしまうのも危険です。重要なのは、自分の課題や時期に合わせて「ピザの何割を持久力(ランニング)にするか」を調整することです。
オフシーズン初期:土台を作るために少し大きめのピースにする(週1〜2回のポール間走など)。
シーズン中:疲労回復やフォーム確認のために、小さめのピースで継続する。
「やるか、やらないか」ではなく「どれくらいの比率で組み込むか」を考えてください。
■ まとめ
「走り込みは時代遅れ」という言葉に流されず、その裏にある意図を理解しましょう。
エネルギー供給回路には3種類あり、野球は瞬発系だが、回復には持久系回路も必須。
持久力には「無酸素性(耐乳酸)」と「有酸素性(回復・燃焼)」があり、目的に応じて使い分ける。
現場での空き時間を使い、ポール間走などで運動連鎖を整えるのは非常に効率的。
疲労はフォームの崩れを招き、怪我の原因になる。持久力は「身体を守る防具」でもある。
もしあなたが「楽をしたいから」という理由で走るのを避けていたなら、週に1〜2回、ポール間走のような「キツイけれど動きを確認できる」ランニングを取り入れてみてください。
それは必ず、マウンド上での「粘り」やシーズンを通した「コンディショニン維持」、そして「球速アップ」の土台となって返ってきます。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
⚾ MOTOについて(筆者プロフィール)
世田谷区でパーソナルジム STRENGTH & STRETCH を経営しています。
トレーナー歴は11年。ゴールドジムやDr.ストレッチで修行を積み、
現在はボディケアとパフォーマンス向上の両面から、お客様をサポートしています。
発信活動歴は6年で、SNS総フォロワーは5万人を超え、YouTube、X(旧Twitter)、Instagram、ブログなどで主に野球やトレーニングに関する情報を発信中です。
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