#35イチローは間違っていた?「筋トレで関節は強くならない」説を科学的に反論します。

野球選手なら知っておきたい身体のこと

こんにちは。東京都世田谷区でパーソナルジムを運営している、パーソナルトレーナーのMOTO(モト)です。
野球、特に投手(ピッチャー)向けのパフォーマンスアップを中心に情報を発信しています。
先日、Twitter(X)を見ていたところ、ある投稿が議論を呼んでいました。

「筋トレをすると筋肉は強くなるが、関節は強くならない。だから怪我をする」という内容です。

この話を聞くと、かつてのイチロー選手の有名なインタビューを思い出す方も多いのではないでしょうか。

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「トラとかライオンは筋トレをしない」でも有名なこのインタビュー

「筋肉が大きくなっても、関節や腱は鍛えられない。だから壊れる」といった趣旨の発言です。

あのイチロー選手が言うのだから間違いない、と思ってウエイトトレーニングを躊躇している選手もいるかもしれません。
しかし、スポーツ科学の視点から見ると、この説は「半分正解で、半分間違い」となります。
今日は、多くの選手が誤解している「関節(腱・靭帯)のトレーニング適応」について深掘りします。
プロの視点から、イチロー選手の発言の真意と、怪我をせずに強い身体を作るための科学的根拠を解説します。

■ この記事の結論(30秒で理解したい方へ)

結論から言います。トレーニングによって、筋肉だけでなく関節(腱や靭帯)も間違いなく「強く」なります。

【なぜ「鍛えられない」と言われるのか?】

筋肉が強くなるスピードに比べて、腱や靭帯が強くなるスピードが「圧倒的に遅い」からです。この「成長のタイムラグ」を無視して急激に負荷を上げると、関節が耐えられず怪我をします。これが誤解の原因です。

【イチロー選手の真意とは?】

彼は「関節が成長する限界」や「時間差」や「適切な身体バランス」を本能的に理解しており、自分の持っている関節の強度以上に筋肉(エンジン)を大きくするリスクを避けた、と解釈できます。

【どうすれば関節は強くなるのか?】

可動域を大きく取った(フルレンジの)トレーニングを行い、時間をかけて組織を適応させることです。特に「筋肉が引き伸ばされる刺激」が腱を強化します。

■ 「関節」とは何か?まずは整理しましょう

「関節が強い・弱い」という話をするとき、具体的に何を指しているのかを分解する必要があります。関節を構成する要素は主に以下の4つです。
1.骨(支柱)
2. 筋肉(エンジン)
3. 腱(筋肉と骨を繋ぐもの)
4. 靭帯(骨と骨を繋ぐもの)

骨は負荷をかければ骨密度が上がり、筋肉は肥大して強くなることは皆さんご存知の通りです。
つまり、議論のポイントは「結合組織である『腱』と『靭帯』は強くなるのか?」という点に絞られます。

■ 結論:腱と靭帯も「進化」する

生理学には「デイビスの法則」というものがあります。
これは「軟部組織(腱や靭帯)も、かけられた機械的刺激に応じて構造を作り変える」という法則です。
実際にディープスクワット(深くしゃがむスクワット)の負荷を膝関節の組織がどう受け止めるかを調べた有名な研究(※Hartmannら, 2013)があります。

このメタ分析(複数の研究データを統合解析したもの)では、以下のような結論が出されています。

「135度以下まで深くしゃがむスクワット(ディープスクワット)は、過度な負担どころか、長期的な適応として膝関節の軟骨、半月板、靭帯の強化に寄与し、怪我の予防に役立つ可能性がある」

つまり、「関節は消耗品」という考え方は古く、正しく負荷をかければ「適応して進化する組織」なのです。

この研究の結論を簡単に言うと、
「適切な負荷でのスクワットは、長期的に見れば腱、靭帯、軟骨といった組織によい適応をもたらし強化される」
というものです。

具体的には、トレーニングを継続することで以下のような変化が起きます。
・コラーゲン密度が高まる
・組織が肥厚する(太くなる)
・スティフネス(バネのような剛性)が向上する

つまり、関節は消耗品ではなく、トレーニングによってアップグレードできる組織なのです。

■ なぜ「筋トレで怪我をする」のか?本当の理由

では、なぜ「筋トレをすると関節を壊す」という説がこれほど広まっているのでしょうか。ここに、先ほど触れた「成長速度のギャップ(タイムラグ)」という落とし穴があります。

筋肉:血流が豊富で、数週間〜数ヶ月で目に見えて強くなる。

腱・靭帯:血流が乏しく(白く見える組織)、強くなるのに数ヶ月〜年単位の時間がかかる。

例えるなら、「軽自動車の車体(未発達な関節)」に、いきなり「F1のエンジン(急成長した筋肉)」を積んで走るような状態が一時的に生まれてしまうのです。

このアンバランスな期間に、筋肉のパワーに任せて無理な重量を扱ったり、フォームを崩したりすると、結合組織が耐えきれずに悲鳴を上げます。実際に現役の投手である私自身も、急激に筋力が強くなった次の年に肘を怪我するという経験をしています。

このタイムラグこそが「筋トレで関節を壊す」の正体であり、「関節が鍛えられない」わけではありません。「関節の成長を待てなかった」のが原因なのです。

これが「筋トレで関節を壊す」の正体であり、決して「関節が鍛えられない」わけではありません。「関節の成長を待てなかった」のが原因なのです。

■ イチロー選手の言葉をどう捉えるべきか

この視点で、冒頭のイチロー選手の発言を考えてみましょう。

イチロー選手はダルビッシュ投手が表現したように、元々、非常に高い身体能力と関節の強さを持っていた「ライオン」のような存在でした。

彼が危惧したのは、「筋肉の成長スピードに関節の適応が追いつかず、自身の感覚や関節の許容範囲とのバランスが崩れること」だったのではないでしょうか。

「筋肉が大きくなっても、関節とか腱は(筋肉と同じスピードやレベルでは)鍛えられない」

この言葉の真意は、「関節は鍛えられない」という単純な否定ではなく、「野球という競技に必要な関節の許容値を超えるほどの筋肉(エンジン)を、リスクを冒してまで急いでつける必要はない」という、極めて合理的なリスク管理だったと解釈できます。

彼の「あえてウエイトトレーニングをしない」という選択は、超一流のアスリートとしての「鋭い判断」であり、彼にとっての最高のリスク管理だったと言えます。

しかし、これは「すでに最高レベルの強度を持つ選手」の判断です。

ほとんどのアスリートや学生にとって、エンジン(筋肉)を大きくしつつ、同時に時間をかけて車体(関節)も強化していく方が、パフォーマンスアップと怪我予防に有効である可能性が高いのです。

■ 【実践】関節を強くするトレーニングのポイント

では、怪我のリスクを抑えながら、関節(腱・靭帯)を強くするにはどうすればいいのでしょうか。ポイントは2つです。

1. フルレンジ(広い可動域)で行う

関節を強くするために必要な刺激は、組織が「引き伸ばされる刺激(ストレッチ負荷)」です。
例えばスクワットなら、浅くしゃがんで重いものを持つよりも、深くしゃがんで筋肉と腱をしっかり伸ばすほうが、結合組織の強化に繋がります。

2. 焦らず「漸進性」を守る

筋肉がいける!と思っても、関節は「ちょっと待ってくれ」と言っているかもしれません。重量を急激に上げすぎず正しいフォームを維持できる範囲で、少しずつ負荷を高めていくことが重要です。

■ まとめ:私たちが取るべき戦略

一般のトレーニーやアスリートにとっての結論です。

Q. トレーニングで関節は強くなるか? ➡︎ A. YES。 適切に行えば、腱も靭帯も肥厚し、剛性が高まり、怪我に強い体になります。

Q. 筋トレで関節を痛めないためには? ➡︎ A. 「時間差」を理解すること。 以下の3点を意識してください。

  1. 漸進性(ぜんしんせい)の原則を守る
    • 重量を一気に上げない。筋肉がいけると叫んでも、関節は「待ってくれ」と言っているかもしれません。組織が適応する時間を待ちましょう。
  2. フルレンジで行う(可動域を広くとる)
    • 腱や靭帯は、ストレッチされた状態で負荷がかかるとき(エキセントリック収縮など)に強く適応します。可動域を制限した高重量トレーニングばかりでなく、正しいフォームで深く動かすことが関節強化の鍵です。
  3. 痛みは「警告」と捉える
    • 筋肉痛は良い反応ですが、関節の痛み(腱の付け根など)は「負荷が組織の適応能力を超えている」サインです。

イチロー選手のように「あえてやらない」選択肢もありますが、一般的には「関節の成長スピードに合わせて、焦らずじっくり筋トレを行う」ことが、動ける最強の体を作る近道です。最後まで読んでいただきありがとうございました。

(※)参考文献
Hartmann, H., Wirth, K., & Klusemann, S. (2013). Analysis of the load on the knee joint and vertebral column with changes in squatting depth and weight load. Sports Medicine, 43(8), 763–778.

⚾ MOTOについて(筆者プロフィール)
世田谷区でパーソナルジム STRENGTH & STRETCH を経営しています。
トレーナー歴は11年。ゴールドジムやDr.ストレッチで修行を積み、

現在はボディケアとパフォーマンス向上の両面から、お客様をサポートしています。
発信活動歴は6年で、SNS総フォロワーは5万人を超え、YouTube、X(旧Twitter)、Instagram、ブログなどで主に野球やトレーニングに関する情報を発信中です。
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