こんにちは。東京都世田谷区でパーソナルジムを運営している、トレーナーのMOTO(モト)です。
部活や自主トレで、こんなふうにトレーニングしていませんか?
- 「ベンチプレス10回ギリギリ挙がる重さで、気合いで毎回10回3セット!」
- 「最後は上がらなくなるまでやり切るのが美学!」
もしこれを毎回やっているなら、正直に言います。 その「根性」は素晴らしいですが、野球のパフォーマンスアップには少し遠回りかもしれません。
以前の記事で「軽い重さを速く挙げるのは、ブレーキがかかるからNG」という話をしました。#34【⚠️野球人の罠】軽いウエイトで速く動かすと「瞬発力が上がる」は嘘⁉︎
「じゃあどうすればいいの?」という声にお答えして、今回は「重い重量を扱いながら、スピードも殺さない」という、私も実践している賢い設定方法(RIR)について解説します。
難しい理論をなるべく噛み砕きつつ、明日から使えるテクニックを高校生・大学生向けにわかるように詳細をお話しします。
■ 結論:毎回「限界」までやる必要はない
先に結論を言います。 野球が上手くなるためのトレーニング(特にパワー向上期)では、「あえて余力を残して終わる」ことが逆にめちゃくちゃ重要です。
これには明確な理由があります。
理由1:動きの「質」と「スピード」が落ちるから
「10回ギリギリできる重さ」で、無理やり「10回」やると想像してください。 最初の数回は良い動きでも、ラスト2〜3回は動きが遅くなり、フォームも崩れ、必死に粘って挙げますよね?
この「粘ってゆっくり挙げる動き」ばかりを繰り返すと、脳と筋肉がその遅いリズムを学習してしまいます。野球は一瞬の爆発力が命なので、これは避けたいところです。
理由2:余力を残した方がパワーがつく(RIRの考え方)
ここで「RIR(Repetition in Reserve)」という言葉を覚えてください。 日本語にすると「あと何回できるか?という余力」のことです。
- RIR 0(余力ゼロ): もう1回も上がらない。限界(オールアウト)。
- RIR 2(余力2): あと2回はできるけど、そこで止める。
実は、「限界(RIR 0)まで粘る」のと「余力を残す(RIR 2など)」のを比べた研究では、余力を残した方が、瞬発力(パワー)が向上したというデータがあります。
「あと2回いけるな」という元気な状態でセットを終えることで、全ての回数を「良いフォーム」かつ「高い出力」で行えるからです。
【重要】「速く挙げる」の誤解に注意!
ここで一つ、以前の記事を読んだ人は疑問に思うかもしれません。
「余力を残して速く挙げるって、軽い重さでやるってこと?それだとブレーキがかかるんじゃ…?」
#34【⚠️野球人の罠】軽いウエイトで速く動かすと「瞬発力が上がる」は嘘⁉︎
鋭いですね!でも、安心してください。
今回の話は「重さは重いままでやる」というのがポイントです。
× NGな例: 軽い重さ(MAXの50%など)に変えて、ビュンビュン速く挙げる
→ 以前の記事通り、ブレーキがかかるので野球には逆効果になりやすいです。
○ 今回の正解: 重い重さ(MAXの85%など)のまま、回数だけ減らす
→ 例えば「5回しか挙がらない重いバーベル」を使います。これなら重力などの負荷が十分にかかっているので、全力で押しても腕がすっぽ抜けるようなブレーキはかかりません。
「重いものを、全力の出力で押す(でも回数は減らす)」。
これなら、減速局面をあまり作らずに、脳から「速く動け!」という強い指令を出すトレーニングになります。
■ 「試合前は完全休養」も実はもったいない
次に、試合前の調整の話です。 「大事な試合前だから、1週間ウエイトを完全に休んで疲れを抜こう」 これもよくある間違いです。
これをやると、確かに「疲れ」は抜けますが、同時に「筋力(アクセル)」も弱まってしまいます。結果、試合当日は「体は軽いけど、ボールに力が伝わらない」という状態になります。
ここで知っておいてほしいのが「フィットネスー疲労理論」です。
- 筋力(強さ): トレーニングですぐには落ちない。
- 疲労(疲れ): 休めばすぐ抜ける。
この性質を利用した正解の調整法はこれです。
「重さは変えずに、回数(セット数)だけガッツリ減らす」
例えば、普段「100kgで5回 3セット」やっているなら、試合前は「100kgで2回 2セット」にするイメージです。 重いものを持つことで体には「筋力を落とすな!」と命令を送りつつ、回数は少ないので「疲れ」だけが抜けていきます。
そうすると、「筋力は高いまま、疲れだけ抜く」という最強の状態が作れるんです。
■ 明日から使えるメニューの組み方
では、具体的にどうすればいいのか。時期や目的に合わせて使い分けましょう。
1. 体を大きくしたい時期(オフシーズン初期)
- 狙い: とにかく筋肉の量を増やす。
- 重さと回数: 10回できる重さで、8〜10回やる。
- RIR設定: 限界までやってOK(RIR 0〜1)。
- この時期は筋肉にストレスを与えたいので、多少動きが遅くなっても追い込むことを優先してOKです。
2. パワー・スピードをつけたい時期(オフシーズン後半〜シーズン中)
- 狙い: 筋肉を「使える出力」に変える。
- 重さと回数: 5回ギリギリできる重さを使って、あえて「3回」で止める。
- RIR設定: 余力を残す(RIR 2〜3)。
- 【超重要】 重さは「5回ギリギリ」の重いものを使ってください。軽すぎるとNGです。
- 重いものを、1回1回「爆発的に押す意識」で3回行います。これならブレーキもかからず、パワーがつきます。
3. 試合の直前(調整期)
- 狙い: 疲れを抜いて、キレを出す。
- 重さと回数: 普段の重さで、1〜2回だけサクッと挙げて終わる。
- RIR設定: かなり余力を残す(RIR 4以上)。
- 「こんなに少なくて大丈夫?」と不安になるくらいであっさり終わるのがコツです。
■ まとめ
トレーニングは「毎回吐くまで追い込む」のが正解ではありません。 目的は「野球がうまくなること」さらに言えば「試合で勝つこと」のはずです。
- 「○回できる重さ」だからといって、その回数限界までやる必要はない。
- パワーが欲しいなら、重い重量を使って、余力を残して終わる(RIR 2〜3)。
- 試合前は「完全休養」じゃなくて、「量は減らして重さはキープ」する。
これを意識するだけで、独学でもトレーニングの質は劇的に上がります。 ただガムシャラにやるだけでなく、頭を使ってライバルに差をつけていきましょう!
参考文献:
- Izquierdo M, et al. (2006). Differential effects of strength training leading to failure versus not to failure… J Appl Physiol.
- Zatsiorsky VM, Kraemer WJ. (2006). Science and Practice of Strength Training.
⚾ MOTOについて(筆者プロフィール)
世田谷区でパーソナルジム STRENGTH & STRETCH を経営しています。
トレーナー歴は11年。ゴールドジムやDr.ストレッチで修行を積み、
現在はボディケアとパフォーマンス向上の両面から、お客様をサポートしています。
発信活動歴は6年で、SNS総フォロワーは5万人を超え、YouTube、X(旧Twitter)、Instagram、ブログなどで主に野球やトレーニングに関する情報を発信中です。
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